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モノおくり

モノおくり(Sacrificial animal),2012

「モノおくり」について
(テキスト作成日:2013年2月14日)

はじめに

 以前、考古学の先生が、縄文時代の遺物の写真を見せながらその当時の人々が暮らした環境や世界観について教えてくれたことがありました。人類は長い時代、気候に合わせた暮らしを営み、文化・社会を形成し、祈りを捧げながら生きてきたのではないかということを、我々は過去から遺されたものから窺い知ることができます。そして、現代に生きる我々は未来に何を遺していくことになるのかということを考えさせられます。「モノおくり」は、そのような「自然と人間との交渉のありよう」についての問いがきっかけとなって生まれたものです。

環状集落

 環状集落とは、中央に墓を伴う広場を持ち、その周囲に住居が配置された、縄文時代前・中期の社会を端的に表す集落形態です。集落の中心に墓地や広場を配するこの構造は、儀礼や祭祀が縄文の人々にとって重要な意味を持っていた事、さらには、死んだ者への祖先祭祀が社会統合の重要な意味を持ち始めたことを映し出しているという考え方もあります。墓地や祭祀跡があるということは、そこで儀礼や祭祀を行うならわしがあったと考えられます。祭祀や儀礼には、その共同体の伝統的な秘密の知識や意味が込められていました。先祖から伝わる知識や技術を、次の世代に継承していくという意識は、縄文時代から既にあったのかもしれません。
 また、環状集落跡から出土する、儀礼や祭祀などに用いられたと考えられるものの中に、石棒があります。時期によって様々ありますが、縄文中期の石棒は、長さ1メートルをこえるものが多く、大きいものだと2.5メートルを超えるものもあります。これほど大型のものだと、制作に費やすエネルギーも相当なものだったことでしょう。葬儀の中で石棒と石皿を組み合わせた祭儀を行っていた痕跡がある事から、石棒は亡くなった人を祖先に昇華させる儀礼に用いられていたのかもしれません。

環状列石

 環状列石は、葬祭と祭祀儀礼の空間であったと考えられている、縄文時代を代表する大規模なモニュメントです。北海道から東海地方に至る東日本の一円に分布し、その中心域を構成するのが青森、秋田、岩手の三県となっています。内帯と外帯の二重の組石群からの構成で、その間に高さ一メートルほどの立石を中心とした日時計状の配石を伴うなど、明瞭な規格性が見られます。また、配石を結んだ線が冬至の日の出と夏至の日の入りに対応し、周囲の山の位置関係などの自然景観を意識した上で環状列石の占地する場所や構造を設計していることから、そこで季節に関係する儀礼やマツリが執り行われたと考えられています。
 組石群の下部からは、死者を埋葬した墓壙(ぼこう:人の遺体を納めて葬送した遺構)のようなものが発見されています。そのことから、環状列石は単なる儀礼やマツリの場として存在していたわけではなく、死者を埋葬し、祖霊を崇拝し、集団の発展や豊穣を祈る地域的な重要な場所だったと考えられます。こうした特異な空間を舞台に、ある共同体の人々が集まり、儀礼やマツリ、歌舞、飲食などが行われ、集団の系譜的な一体感を高めると共に、地域内の集落相互を結びつける役割を果たしていたと考えられています。それと同時に、環状列石の共同墓地は、階層的な性格を帯びた「特定集団墓」という、社会的な不均衡が顕在し、集団内の階層化が進展した社会があったことを示しています。環状列石は祭儀を統括する指導者たちの権威誇示の舞台であり、不平等な葬送の場でもあったのかもしれません。

オンカロ

 話が飛びますが、フィンランドのユーラヨキ自治体に属するオルキルト島に、「オンカロ」と名付れられた、「地下岩盤特性調査施設」が建設されています。これは、原子力発電所から出される使用済み燃料(高レベル放射性廃棄物)を地下に埋めて処分する、世界初の最終処分場です。耐用年数は、放射能レベルが生物に無害になる十万年とされています。
 世界中には現在、二十五万トンの高レベル放射性廃棄物が存在しています。エネルギーを使った分の膨大なゴミです。エネルギーを使ったからには当然、廃棄物を処分しなければなりません。しかし、多くの国では最終処分場が見つからず、使用済み燃料やガラス固化体(高レベル放射性廃棄物)は、中間貯蔵されています。使用済み燃料の中間貯蔵施設は、アメリカ、ドイツ、オランダ、スイス、また日本では、東海再処理工場と、六ヶ所再処理工場の二か所があります。しかしこれらの中間貯蔵施設には限界があります。
 オンカロは段階を経て建設され、二〇二〇年に操業開始を予定しています。地下四〇〇~五〇〇メートルの空間に使用済み燃料を埋めていき、二一〇〇年に操業を停止。埋設が完了したら、坑道は埋め戻されて、トンネルを掘る前の状態に環境を限りなく戻します。人類史上では、まだ一万年でも持ちこたえた建造物はありませんが、オンカロ(=「隠された場所」)はその後十万年持ちこたえることになります。

おわりに

 十万年をさかのぼると、アフリカに原生人類の祖先がいて、ヨーロッパではネアンデルタール人が暮らしていた時代になります。十万年後=三千世代後の人類はどのような姿をしているのでしょうか。どのような社会のなかで、どのような言語を用い、文化を形成しているのでしょうか。現代の我々が歴史的な建造物や遺跡に興味を抱くように、十万年後の人々も、オンカロを何かの信仰装置や儀礼の場だと考えるかもしれません。 

参考文献:
東北文化研究センター  『季刊東北学』(柏書房・ 第15号)
マイケル・ マドセン  『100000万年後の安全』(かんき出版・2011年 )


Date: 09/19/2017 | Category: | Name: Nozomi TANAKA