鹽竈取材(塩作りの工房を訪ねる①) | Nozomi TANAKA 鹽竈取材(塩作りの工房を訪ねる①) – Nozomi TANAKA

 

     
鹽竈取材(塩作りの工房を訪ねる①)

塩作りのおじさんに会ってきた。私にとっては「やっと会えた」という感じだった。
以前に塩作りをモチーフにした絵を描いてはいたものの、塩作りの現場をみたことがなかったので、なんとなく後ろめたさがあったのだ。

 
緊張しながら工房にお邪魔した。奥の釜では塩が焚かれて(?)いた。
ひとまず、地域のことを調べたりしながら絵を描いてること、塩作りの文化に興味があり以前絵に描いたことがあることなど、軽く自己紹介をする。おじさんが開口一番に「塩作りの現場はどこかで見たことがあるのか?」と聞くので、「まだ見たことがないので見せてもらいたくて来た」と答えると、「お前は講談師みてえだな。実際に理解していないで見てきたように話す。ちゃんと現場のことを見てきたものでないと俺には響かないね」と返された。怒っている風でも咎める風でもなく、おれはそう思うね、という感じで。
血の気が引くと同時に、自分がとても恥ずかしくなった。でもそれは私を突き放すような態度ではなく、それからおじさんは、塩作りのことや、鹽竈の話をいろいろと聞かせてくれた。
 
市史や鹽竈神社に関する本で多少調べはしていたものの、やはり「会って話す」ということから得られるものは大きい。それは資料を読むことから得られるものはないということではなくて、自分の実感が伴わないと書かれたものを理解することは難しいのだ、私の場合は。
おじさんは自分の足でいろいろな土地へ出かけるらしい。そういう、「実感することから考える」ことを常にして来た人だからこそ、私の上滑りした感覚に意見してくれたのかもしれない。

 

 



 
さて、塩作りの工房は創業2009年。もともとは魚の加工を行い販売する商店を経営していたそうだが、地域の文化に根ざした事業を開発し地域活性化につなげようという市の動きや、「古来から塩作りが行われてきた土地で塩が生産されていない」という及川さんの想いが重なり、商店を改装して塩作りの工房を開くことになったという。
古来からの製塩技法を取り入れた塩作りで、ホンダワラで濾した潮水を竃で焚き上げることから「藻塩」と名付けられている。
窯焚きの工程は2段階あり、はじめに15時間ほど大きな釜で焚き、一晩置いて、鹹水の状態になったものをさらに焚きあげる。

 

 

▲ホンダワラ


▲ホンダワラで濾した潮水



 
初めの釜で焚いた際に出来上がる大きな塩の結晶は、この手間暇がかかる塩作りならではのもの。前日窯焚きをして、翌朝工房に来ると、釜一面に大きな塩の結晶が広がっているのだそう。これは常に出来るのではなく、何かしらの条件が揃ったときにしか発生しないらしい。

 

 

▲大きな塩の結晶



 
おじさんはこの塩の結晶を見て、旧字の「鹽」という漢字の「鹵」の部分がまさにこの結晶の形だと納得したのだそうだが、確かに見て納得である。

 
 

 

 
私が工房を訪ねたときは、窯焚きの第二工程が行われていた所だった。
 

▲鹹水を焚き上げている所


▲焚き上がった藻塩



 
また今度、最初の大きい窯を焚いている所を見せてもらう約束をした。

 

 
おじさんは「塩作り」の他にも、鹽竈の話をいろいろと聞かせてくれた。

震災の時にはこの工房にも津波が押し寄せ、ちょうど神棚の下まですっかり水に浸かってしまったこと。工房がある場所(もとは商店)はもともと海で、造成地であること。かつては海がもっと陸地に入り込んでいて、御釜神社のあたりが船着場だったこと。以前は鹽竈神社のある丘と愛宕神社がある丘の間には「秡川」と呼ばれる川が流れていたが、区画整理で暗渠になったこと。鹽竈の特産品には塩の他に「鹽竈石」と呼ばれる石があり、現在も町なかの古い家や蔵に見られるということ。などなど。
とくに驚いたのは「産婆さん」の話だ。かつて産婆さんは出産の頃合いを潮の満ち引きではかっていたそうで、出産の他に、死期についても、やはり潮の様子で判断していたのだという。病院出産が当たり前の時代に生まれた者からしたら、「産婆さん」というのはちょっと昔話の世界にいる存在に近いのだけど、おじさんはそれを実際に見聞きしていたというのだから、今からほんの少し昔にはそういうことが当たり前の時代があったんだなぁと実感した話だった。

いろいろと話を聞かせてくれて、私がなんでも信じて聞くので、「そんなんじゃ生きていけないぞ。」とも釘をさされた。民話の会の小野さんが度々おっしゃっている「資料には間違いがたくさんある」という言葉を思い出す。私も、自分の実感や考えを持てるようになりたいけれど、道のりは遠い・・・


Date: 06/17/2018 | Category: フィールドノート|地域 | Name: Nozomi TANAKA