肘折で出会った湯治客 | Nozomi TANAKA 肘折で出会った湯治客 – Nozomi TANAKA

 

     
肘折で出会った湯治客

9/23-24、「ひじおりの灯」の灯籠解説動画(例年は現地で「絵語り」というイベントがあるが、今年はコロナ対策のため、動画での配信となった)の撮影のために肘折に行って来た。

初めて肘折に訪れる友人を地蔵倉まで案内すると、お堂のなかに先客がいた。
挨拶をしてどこからいらしたのか伺うと、東京から、肘折温泉には45年ぶりに来たとのこと。
友人らとお堂の中に入って、一緒に腰を下ろした。

聞くとその男性は、昭和20年代生まれの70代で、足を怪我したので肘折に湯治に来ているらしい。ご出身は新庄市で、いまもご家族が住んでいるが、ご自身はいくつかの職と地域を渡り歩いてきて、スキーのインストラクターや、20代の頃からは建設現場、船大工を経験し、現在は宮大工の職人をしているという。趣味では自転車やクライミングをしている、とてもアクティブでいろんなことに関心がある方のようだった。旅の話や、宮大工になるまでの経緯、結婚〜出産の話や、ご家族の病の話など、ときおり落語の掛け合いのように演じながら語ってくれた。
奥さんが病にかかり酷くなっていき、助かる見込みもない状況がつらすぎて見れないから、見舞いに行かず遊びに出かけてしまい、親戚からものすごく批難されたと言っていて、終始にこやかに話していた男性だが、そのときには少し悲しそうな苦しそうな表情を浮かべていたことが印象に残っている。

気がつけば陽が傾き始め、お堂の中に吹き抜ける風が冷たく感じられるようになっていた。そろそろと腰を上げて話を切り上げる。
男性はもう2週間ほど湯治で滞在していて、もうすぐ東京に戻るとのこと。お湯のおかげで足もよくなって来たと言っていた。
湯治とは何をするのかと尋ねると、「何もしないで、お湯に入ってだらだら過ごすだけ。前に来た時はずいぶん周辺を散策したりもした。米を〇〇kg抱えて来て。もうだらだらするのも飽きて来たな」と、笑いながら答えてくれた。
現代の暮らしで「湯治」という文化は、聞きはするけど馴染みのないものであったので、偶然にも本当に湯治に来ているという方に会って、しかも地蔵倉でゆっくり過ごしながらおしゃべりをして、「湯治」というものを、湯治をしている人やその風景とともに感じられる出来事だった。
なおその男性は、また偶然にも同じ宿に泊まっていた。夕食の時に通りかかったので挨拶をしたが、しっかりと肘折湯治での正装・パジャマ姿であった。(さらに偶然その男性の隣部屋だったという友人は、夜中まで元気な話し声に悩まされたようだが…)


Date: 09/25/2020 | Category: ひじおりの灯|地域 | Name: Nozomi TANAKA